曲率が上に有界な距離空間の幾何学について
日 時 2025年12月11日(木)15:15〜16:45 場 所 自然系学系D棟D509 講演者 永野 幸一 (筑波大学) 題 目 曲率が上に有界な距離空間の幾何学について 概 要 A. D. Alexandrovを嚆矢とする曲率が片側に有界な距離空間の幾何学はアレクサンドロフ幾何学と呼ばれている.Gromovが1980年代後半に双曲群の概念を提起して以来,曲率が上に有界な距離空間は,幾何学的群論の基礎にもなっており再び脚光を浴びている.一方で,Gromovが1980年代前半に距離空間列に対して収束の概念を定式化して以来,曲率が下に有界な距離空間は,大域リーマン幾何学の収束・崩壊理論において重要な研究対象になっている. 本講演では,曲率が上に有界な距離空間の幾何学の最近の発展のうち,測地的完備なGCBA空間に関する基盤的な研究について概説する.とりわけ,微分幾何学的な研究手法と幾何学的トポロジーの観点を融合させて得られる研究成果について紹介したい.
粗凸空間とその理想境界
日 時 2025年11月19日(木)16:45〜18:00 場 所 自然系学系D棟D509 講演者 深谷 友宏(東京都立大学) 題 目 粗凸空間とその理想境界 概 要 講演者は尾國新一氏(愛媛大)との共同研究にて、単連結な非正曲率リーマン多様体の粗幾何学(空間を遠くから眺めた時に見える構造に着目した幾何学)における類似物である、粗凸空間を導入し、その理想境界(無限遠境界)を構成した。Cartan-Hadamardの定理により、単連結非正曲率リーマン多様体の理想境界は常に球面になるが、粗凸空間の理想境界はより複雑な空間になり得る。さて、しばしば距離空間の粗幾何学的情報は、その境界に織り込まれていることがある。実際に、固有な粗凸空間の粗ホモロジーは、境界のホモロジーと同型になる。この結果にHigson-Roeによる指数定理の研究を適用することにより、粗凸空間上の「Dirac型作用素」の指数を、理想境界のホモロジーを用いて分類することができる。本講演では、上述の理論の応用として、閉多様体の基本群が粗幾何学の意味で非正曲率を持つときに、スカラー曲率が正となるリーマン計量が存在しないという結果を紹介する。
高次元統計解析に基づくクラスタリングと変化点検知
日時:2025年11月14日金曜日 15:15~16:30 場所:自然系D棟509 講演者:江頭健斗 氏(東京理科大学 創域理工学部) 概要:現代の科学・工学分野では,観測変数の数が標本数を大きく上回る「高次元データ」が一般的となっています.このようなデータ構造のもとでは,従来の多変量解析の理論や方法論は適用が難しく,それに代わる新しい統計的枠組みの構築が進められています.本講演では,高次元統計解析の観点から,クラスタリングと変化点検知という二つの代表的なデータ構造推定手法を取り上げます.まず,階層的クラスタリングにおける樹形図の構造に注目し,高次元データ特有の性質を整理します.特に,階層的クラスタリングに関する最近の理論的進展についても紹介します.続いて,時系列的な高次元データに対して,平均構造や共分散構造の変化を検出するための新しい方法論を紹介します.これらの手法は,高次元漸近理論に基づいて構築されており,大標本データとは異なる高次元特有の現象を適切に捉えることを目的としています.さらに,数値実験を通じて,理論的成果が実際のデータ解析にどのように応用できるかを示し,高次元データ解析の今後の展開と課題について議論します.
行列式点過程上の点相互作用に対するIDSについて
日 時 2025年10月16日(木)15:30〜17:00 場 所 自然系学系D棟D509 講演者 峯 拓矢(京都工芸繊維大学) 題 目 行列式点過程上の点相互作用に対するIDSについて 概 要 点相互作用をもつシュレディンガー作用素は、量子力学における可解模型の一つとして知られている。本講演では、3次元ユークリッド空間における点相互作用をもつシュレディンガー作用素において、相互作用の台が行列式点過程と呼ばれるランダムな点配置の場合を考え、対応する integrated density of states (IDS) のスペクトル・パラメータが負の無限大に発散する極限における漸近挙動を与える。本講演は、白井朋之氏(九州大学)との共同研究に基づく。
ワッサースタイン勾配流による連続無限層ニューラルネットワークの数学解析
日 時 2025年7月31日(木)15:15〜16:30 場 所 自然系学系D棟D509 講演者 磯部伸(理化学研究所) 題 目 ワッサースタイン勾配流による連続無限層ニューラルネットワークの数学解析 概 要 現代AIの中核技術である深層ニューラルネットワークは,活性化関数とアファイン変換からなる非線形関数を,再帰的に合成することで得られるパラメタ付き関数モデルです.そのパラメータを,ある目的(汎)関数の値がなるべく小さくなるように更新することで関数を近似する,というのが,深層学習の基本的なアイデアです.ここで「この更新は時刻無限大で収束するのか」という数学的な問題が生じます.本講演では,実解析的な滑らかさを有するニューラルネットワークを用いる設定において,この問題にアプローチする試みについてお話しします.時間が許せば,技術的な鍵となるワッサーシュタイン勾配流の漸近挙動解析理論の拡張についてもお話ししたいと思います.
Vojta予想と,その最大公約数や力学系への応用
談話会情報 日時 2024年12月11日(水) 13時45分~15時15分 (Tea time 13:15~) 場所 D509 講演者 安福 悠氏(早稲田大学) 講演題目 Vojta予想と,その最大公約数や力学系への応用 概要 Vojta予想とは,ディオファントス幾何の壮大な予想の一つで,「p進的な近似の精度を代数多様体の大域幾何で制御できる」と主張する.ブローアップ上でのVojta予想は最大公約数の不等式となり,整数点の分析などに応用されてきた.また,Vojta予想は,周期点の一様有界性や軌道上の整数点の非稠密性にも応用できる.このような近年の研究について紹介する.
Diffeomorphism group and gauge theory
談話会情報 日時 2024年12月5日15:30~17:00 (15:00よりtea time) 場所 D509 講演者 今野 北斗氏 (東京大学数理科学研究科) 講演題目 Diffeomorphism group and gauge theory 概要 4次元は多様体の分類理論の中で特異的な次元であり,4次元多様体のみに対して発生する現象が存在する.このような現象の発見・追求の道具として,物理学由来の偏微分方程式を4次元多様体上で考察するゲージ理論が有効であることも,現在では良く知られている.他方,多様体のトポロジーにおいて,多様体の自己同型群である微分同相群は基本的な興味の対象である.半世紀以上前に分類が一段落ついた高次元多様体に対してもなおその発展は著しく,最近のトポロジーの重要な潮流をなしている.そのような流れの中で,4次元多様体の微分同相群の組織的な研究,特にゲージ理論的な研究は,少数の先駆的な結果を除いて長らく未開拓だった.しかしこの数年,4次元多様体の族に対してゲージ理論を展開する「族のゲージ理論」が急速に発展し,それに伴い4次元多様体の微分同相群の理解が前進しつつある.具体的には,多様体の分類理論と同様,多様体の微分同相群に対しても,4次元特有の現象が存在することが明らかになってきたのである.談話会ではこのような最近の展開を概観したい.
パーコレーションにおける路の数
談話会情報 日時 2024年10月31日15:30~17:00 (15:00よりtea time) 場所 D509 講演者 福島竜輝(筑波大学数理物質系) 講演題目 パーコレーションにおける路の数 概要 整数格子の各辺において,独立にopen/closedが指定されているときに,いろいろな意味で連結性を調べることをパーコレーションの問題という.この模型については,無限に延びるopenな路の存在が中心的な問題として研究されており,多くのことがわかっている.一方で,指定された長さのopenな路がどれくらいあるかも,独立に興味ある問題である.この講演では,ある意味で「向き」のついた路の数については,長さについて指数的に増大し,増大率はランダムではない定数であり,各辺がopenである確率に連続的に依存する,といったことが証明できることを紹介する.
